古版木復刻 武蔵野美術大学造形研究センター「嵯峨本謡本復元プロジェクト」

嵯峨本謡本の美を探るー古活字版『三井寺』の復元プロジェクト
竹笹堂は、武蔵野美術大学造形研究センターの研究プロジェクト「日本近世における文字印刷文化の総合的研究」の関連プロジェクト「嵯峨本謡本復元」に、技術的側面の再現と検証にあたり、現代の木版印刷の実技者として参画しました。
慶長年間(1596〜1615年)に角倉素庵らによって出版されたとされる嵯峨本の謡本(通称「光悦謡本」)。
百帖一組のこの書物は、用紙や装丁に雲母や胡粉、色紙を施し、光悦流書風書体の木活字、列帖装による装飾を用いるなどの豪華さで、日本の印刷文化史においても、他に類のない優美な意匠を特徴としています。
今回の復元プロジェクトでは、肉筆版下にもとづく木活字の制作から、紙漉き、料紙制作、組版、印刷、製本に至るまで、当時の制作技術を現代の手仕事から解き明かすものです。
竹笹堂からは彫師の野嶋一生と摺師の竹中健司が研究に参画。当時使用された木活字や摺刷盤などが発見されていないため、これまでに取り組んできた古版木復刻事業で培った技術経験を生かし、復元方法を提案しました。

京都・鷹峯の光悦寺が所蔵する光悦流書風の写本をもとに原字が作成され、その版下を転写し彫る。文字同士が連なる木活字は、文字の筆づかいや流れに細心の注意をはらい彫り進める。

専用の挟み板で固定された木活字のコマ版木。前後左右動かないよう工夫を凝らしている。

木活字と摺刷盤は現存しないため、独自の摺刷盤を製作。当時も頁ごとに木活字の組み替えが行われていたと推察される。そのため、文字組みの固定と分解を容易くできるような形状を考え出す。

胡粉引き、雲母摺りの装飾がなされた料紙の上に文字を摺る。料紙の風合いを活かしつつ、鮮明に文字を摺るには、慎重かつ手早く精緻な作業を要する。

胡粉をムラなく引いた上に唐紙の版で雲母摺りし贅を尽くした料紙。一文字人文字、筆跡を忠実に再現した木活字を平滑に文字の行(ぎょう)がずれないように組む。収縮性のある木製という特性を考慮しながら力の配分を考えながら摺る。
いずれも、木版印刷を一貫して行う工房のチームワークが発揮されたプロジェクトと言える。
概要
- 古版木復刻 プロジェクト
- 武蔵野美術大学造形研究センター
「日本近世における文学印刷文化の総合的研究」
(2014年度 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 研究代表:新島実教授)
[関連プロジェクト]
◆嵯峨本謡本復元プロジェクト
大入達男 制作統括/株式会社大入 代表取締役
竹中健司 本文摺り/有限会社竹笹堂 代表取締役
野嶋一生 木活字彫り/有限会社竹笹堂
嘉戸浩 表紙雲母摺り/かみ添
石垣貴子 ごま符/武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科 非常勤講師
吉田友子 制作進行/株式会社大入
◆企画・監修
新島実 研究プロジェクト長、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科 教授
寺山祐策 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科 主任教授