版木新調復刻例 岩屋寺「十三仏像・不動明王像」

代々受け継がれた貴重な版木の保存と、新たな歴史を刻む版木の制作

古版木新調例「十三仏像・不動明王像」

四国八十八ヶ所霊場第四十五番札所「岩屋寺」。この岩屋寺で代々使用されてきた2枚の版木の新調復刻を行いました。
釈迦をはじめ13尊の仏様が描かれる「十三仏像」と、岩屋寺のご本尊である「不動明王像」が描かれた版木は、どちらも参詣されるお遍路さんの装束に摺りを施すためのもので、江戸期から使い続けられたものでした。
長年の使用によって生じる、版木の摩耗や墨の固着、反り、その他様々な要因による侵食が重なり、修復のご依頼を頂戴しました。状態確認と今後の対応を検討したところ、現在まで使用された版木はこのまま保存し、次の100年、200年へと受け継ぐ版木へ新調することとなりました。

仏様ごとに手で結ばれる印や道具が異なるため、新調するにあたり、岩屋寺よりご説明を受けて微細な違いを理解することから始めました。
仏様の表情、手先だけでなく背景に広がる雲の一筋一筋まで、多くの細かいパーツが描かれており、特にお顔は彫りが繊細で、慎重な作業が必要であり、独自技術によって見事にもとの版木が作られた当時の面影が蘇りました。

これまで使用されてきた版木は、このまま姿を保たせることで、今後修復や新調が必要になった際に、絵図が持つ真髄を知ることができるように丁寧に保存を行います。
何代もの版木が生まれてもなお、積み重ねられてきた畏敬の念や、数多く施された仏様の救いが連続性を失うことなく存在し続けていくことを可能にします。

お預かり時の状態と修復のポイント

墨に埋もれた骨線

摺りにより版木の表面が摩耗し、文字を覆うように墨が固まって摺りにくくなっていた。

経年によって反った版木

木材であるため環境に影響を受けやすく、保存している間に次第に反りが生じた。

「十三仏像」新調復刻の過程

古版木修復着手段階

1.原版の調査摺り

版木を痛めないように、状態確認のための調査摺りを行う。
墨の固着と摩耗で、細かい部分が潰れ、主線となる「骨(コツ)」が切れている。

古版木修復途中

2.版下・版木作り

良い状態で保存されている原本をもとに、忠実な版下(下絵)を再現し、版木を作成。
描かれている仏様について解説を受け、お姿を再現する。

古版木修復修理完成

3.新版木本摺り

「骨」を彫り整えて試し摺りを行う。優しい表情が浮かんだ。
さらに彫りの調整を繰り返して出来を確認し、最終的な本摺りを行う。

ご本尊「不動明王像」新調修復の過程

厳しい表情を見せる不動明王は、大日如来の化身として悪を伏せ、人々を救済する仏様で、「お不動さん」として親しまれています。
岩屋寺のご本尊であり、この版木のお姿も邪を払う険しい表情で描かれています。

原版の調査摺り

余分な墨が線を覆い、表情は曇り、装飾の細かい描写が失われつつある。

新調復刻で蘇る怒りの形相

邪ににらみを効かせる、堂々たる厳しい表情の不動明王が再び表された。

修復概要

内容
岩屋寺所蔵版木「十三仏像」「不動明王像」版木新調復刻
作者
不明
制作時期
江戸時代
サイズ
タテ50cm×ヨコ30cm×厚さ2.4cm
作業内容
山桜板単色墨摺1版 2枚:版下作成 / 版木彫り / 調査摺り・本摺り
制作期間
およそ 2ヶ月

四国霊場第四十五番札所 海岸山岩屋寺

愛媛県上浮穴郡久万高原町に位置する真言宗豊山派の寺院。四国八十八ヶ所霊場第四十五番札所。不動明王を本尊とする。大師堂は国の重要文化財に指定されている。
弘法大師が、山中で出会った修行中の女性仙人から献上された山に像を祀り、山全体を本尊としたことから始まる。
標高700mの切り立った山の中腹に堂宇が佇むその美しい景色から、名勝としても知られ、アメリカ「ニューヨークタイムズ紙」に四国が世界で訪れるべき場所の一つに選ばれた際には、岩屋寺参詣の風景写真が掲載された。

四国八十八ヶ所霊場公式サイト


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