木版印刷の歴史をたどる シルクロードプロジェクト Vol.1 韓国

木版印刷の歴史をたどるシルクロードプロジェクト

仏教伝来とともに日本に伝わったとされ、1300年の歴史を持つ日本の木版印刷。竹笹堂は実際に大陸を横断してルートを辿り、各地域の木版印刷と出会いながら、木版印刷の源流をたどるプロジェクト「シルクロードプロジェクト」を立ち上げました。

プロジェクトのスタートとして、彫師摺師ら職人による木版印刷史研究チームを結成し、第一回目の調査地として韓国へ飛びました。

韓国は先史より、大陸からの文化が日本に伝わる玄関口として、長い交流の歴史があり、本プロジェクトの重要な地域の一つです。

韓国には、世界最古級の仏教版画や、数万枚にも及ぶ朝鮮王朝時代の古版木など、数多くの歴史的価値の高い史料が残っています。

今回研究チームが調査に訪れたのは、ソウルにある国立民俗博物館と原州の古版画博物館で、ともに貴重な古版画・古版木を保有する韓国国内有数の博物館です。

日韓国交正常化50周年記念行事で竹笹堂の職人が日本伝統木版画の技を披露

調査に訪れた今年2015年は、日韓国交正常化50周年となる記念の年であり、公式事業の一環として、両館で「原州古版画文化祭」が開催され、日韓木版画研究者による学術シンポジウムや、「日本古版画の世界」をテーマにした特別展、そして日韓両国の木版画職人による木版画制作実演が行われました。
日本からは、竹笹堂の職人が、伝統技法による浮世絵木版画作りを披露し、のべ1,000人を超える来場者に、竹笹堂代表竹中健司が解説を行いました。

日本の伝統木版画の技を初めて前にした来場者たちは、道具の展示や実演の模様を熱心に見学し、材料の「にかわ」について質問するなど、木版画への興味が高いことが伺えました。
また、韓国メディアも訪れ、現地テレビ局のニュースや新聞でも報じられました。

祇園祭

アジア全域から収集され古版木・古版画を展示している。(古版画博物館)

祇園祭

浮世絵木版画の技法について、摺師に熱心に質問をする来場者。

日韓両国で独自に育まれてきた木版印刷 職人・研究者との交流で新たな発見も

古版画博物館では、日本の浮世絵や、韓国・中国・モンゴル・チベットなどアジア各地の古版木を二千点以上所蔵しており、中には現地でも見ることが難しい貴重な古版画や古版木を含んでおり、木版印刷の変遷をたどる手がかりを確認できました。
また、現地の木版画職人や研究者、日本から訪れた研究者たちと交流を深め、道具や工程の相違点や、日韓の木版印刷の歴史などについて、それぞれの研究にもとづいて意見交換を行いました。

韓国の鷹の版画

薄手の韓紙に摺られた鷹(韓国)

韓国の虎の版画

独特な画風で描かれた虎(韓国)

チベット仏教版画

優しい表情の菩薩像(チベット)

所蔵される木版画は、仏教書や仏画、民画など、単色墨摺りの木版画が多く、仏教の発展や布教、また、民間の人々の生活に深く関わっていたものだと推測されます。
現地の職人が使用している道具や、制作工程についても共通点が多く見られましたが、木版印刷において重要な道具の一つであるバレンは日本とは異なり、今回の調査の中でも非常に興味深い発見となりました。
日本の本バレンは、竹の繊維と和紙を材料として使用します。韓国では女性の長い髪を素材にしており、まとめたものを蜜蝋で固めて使用すると職人から解説を受けました。
またその他、版木やにかわ、絵具などの素材についても、さらに掘り下げた調査が必要だと判断しました。

木版印刷文化の保存と発展に協力 アジアにおける研究体制を互いに強化する

古版画博物館館長であり、韓国古版画学会の会長でもある韓禪學(ハン・ソンハク)氏をはじめ、木版印刷研究家たちから、本プロジェクトの趣旨に熱い賛同を受け、古版画博物館と「相互交流協約」を結ぶ調印式典が行われました。
本プロジェクトを通して、同館の目的でもある東洋古版画の保存と発展のために、交流活動の積極的な推進を行い、継続的に交流、協力していくことで、研究を加速させる可能性を見出すことができました。

祇園祭

調印式典での竹中(中央左)と韓館長(中央右)

祇園祭

日韓両言語で記載された「相互交流協約」締結証書

今回の調査では、韓国の木版印刷文化に触れ、次なる調査地域の足がかりとなる強い協力体制を築くことができました。また、作家作品としての木版画文化が広がりを見せていることを知りました。
我々は大きな収穫に繋がる第一歩を踏み出したばかりです。今後も継続した交流を通して木版画の歴史研究や、文化発展に寄与していきます。

古版画博物館

韓国江原道原州雉岳山明珠寺に位置し、仏教書や仏画を中心に、東アジア各地の古版画・古版木を所蔵する。江原道の有形文化財に指定されている韓国木版画や、日本の古版画も1000点以上所有しており、世界各地からの来館者で賑わう。


ページ
上部へ